組織・人事

増えるパワハラ、どう対策するか

パワハラ(パワーハラスメント)の増加が止まらない。厚労省がまとめた全国の「民事上の個別労働紛争相談件数」の「いじめ・嫌がらせ」の件数は2002年の6627件から右肩上がりに増え続け、2016年度の7万917件(前年度比6.5%増)に達している。(文:日本人材ニュース編集委員 溝上憲文、編集:日本人材ニュース編集部

パワハラ

パワハラは年々増加傾向

2012年にパワハラについて定義した「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」が出され、企業に周知されたはずだが、一向に減る気配がない。厚労省が2016年7月から10月かけて実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」(4月28日公表)では、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した従業員は32.5%。4年前の2012年に比べて7.2%増加し、3人に1人の割合となっている。

しかも大企業ほどパワハラ被害者は多い。従業員1000人以上の企業で過去3年間にパワハラ受けた人は34.8%。その中で「何度も繰り返し経験した」人は7.6%もいる。ではどんなパワハラを受けたのか。最も多いのが「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」で約20%。続いて「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」、「隔離・仲間外し・無視」の順になっている(前掲調査の追加分析2017年9月20日)。

過労死にもつながるパワハラ、泣き寝入りする人が多い現実

パワハラは過労死、過労自殺の温床になっていることもよく知られている。10月6日に公表された「平成28年度過労死等防止対策白書」では2010年から17年3月までの精神障害の労災認定事案2000件を分析しているが、発病時の年齢は男女を問わず「30~39歳」が最も多かった。発症原因の出来事別では、2番目に多かったのが「(ひどい)嫌がらせ、いじめ又は暴行を受けた」(210件)。「上司とのトラブルがあった」(189件)も4番目である。

パワハラを受け続けると、うつ病などの精神障害を発症する確率が高くなるが、それでも泣き寝入りする人が多い。厚労省の調査ではパワハラには限らないが、従業員向け相談窓口を設置している企業は73.4%に上る。だが、先の追加調査では「会社関係に相談した」人は48%だが「何もしなかった」人が46%もいる(大企業調査)。

さらに、なぜ何もしなかったのかと聞くと、約70%の人が「何をしても解決にならないと思ったから」と答えている。「職務上不利益が生じると思ったから」と答えた人も30%弱いるが、多くの人がパワハラを受けてもがまんしている人が多いのが実態だ。

パワハラを裁判で訴えることもできる

もちろんパワハラを理由に裁判で訴えることも可能だ。

実際に提訴された事例も少なくない。会社の上司が部下に「新入社員以下だ。もう任せられない」「なんで分からない。お前は馬鹿」と発言した事実を裁判所は民法709条の不法行為に当たると認定。また、部下の社員が社内のコンプライアンス室に通報したのに適切な対応をとらなかったとして職場環境配慮義務違反の債務不履行(民法415条)を認定、上司とコンプライアンス室長に慰謝料を支払うことを命じる判決を下している(2015年1月28日、東京高裁判決)。

政府のパワハラ対策

増え続けるパワハラ対策に政府も動き出している。安倍政権がまとめた「働き方改革実行計画」では「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」と明記。現在厚労省の検討会でパワハラ防止強化の具体策を検討している。早ければ年内に報告書が出される予定だ。

企業のパワハラ対策

もちろん企業も対策をしていないわけではない。

たとえばユニ・チャームでは社員の行動指針に「職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範囲を超えて、継続的に人格と尊厳を傷つける言動を行い、社員の働く環境を悪化させ、あるいは雇用不安を与えるような行為はいたしません」と明記。入社4~5年目の社員、管理職、部署単位の3層に分け、パワハラ増加の原因と背景の認識、パワハラの判断基準を具体的に理解する研修を実施している。

研修では具体的なパワハラ事例として①クビ(解雇)にするぞ、と脅す、②必要以上にミスを追求する、③残業を強要する、④無視する・仕事を与えない、⑤プライベートな飲み会への参加、飲酒の強要――等を挙げて繰り返し説明している。

さらに15項目のパワハラを起こす可能性がある言動のチェックリストを用意し、確認している。たとえば①部下を立たせたままでよく説教する、②今までに複数の部下が辞めたことがある、③おとなしい部下には、ついつい口うるさくなる、④自分の意見に反論する部下はいない、⑤部下の顔、行動を見るにつれイライラしてくる――といった兆候があるとパワハラ的要素があるとして戒めている。

会社と労働組合のパワハラ対策

また、会社側だけではなく労働組合も一緒になってパワハラの解消に向けて取り組んでいるのが福岡県の大手メーカーだ。同社の全国6支部4分会を組織する労働組合が2013年春闘でパワハラ対策を要求し、「ハラスメントに関する覚え書き」として労働協約を締結している。

相談機能として各事業所に労組の執行委員を含む男女各1人の相談員を置くとともに、匿名で相談できる外部の相談窓口の設置や労働組合でも受け付けている。相談内容によっては各事業所の調査委員会の調査を経て、苦情処理委員会、賞罰委員会に上げて対応を検討する仕組みになっている。また、労使による「ハラスメント防止委員会」を年1回開催しているが、委員会開催前に会社が各地区の総務にヒアリングを実施し、発生・相談状況を収集し、確認することにしている。

パワハラは最終的には声を上げることが重要

ただし、こういう仕組みを整備しても従業員が声を上げなければ最終的に解決しない。世の中にはパワハラを一定程度許容する“昭和的”な会社もある。冒頭に紹介した7万件の相談件数をベースに、パワハラ発生件数が多い企業を“ブラック企業”として社名公表するぐらいの措置があってもよいかもしれない。

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溝上憲文

人事ジャーナリスト/1958年生まれ。明治大学政経学部を卒業後、新聞、ビジネス誌、人事専門誌などで経営、ビジネス、人事、雇用、賃金、年金問題を中心に執筆活動を展開。主な著書に「隣りの成果主義」(光文社)、「団塊難民」(廣済堂出版)、「『いらない社員』はこう決まる」(光文社)、「日本人事」(労務行政、取材・文)、「非情の常時リストラ」(文藝春秋)、「マタニティハラスメント」(宝島社)、「辞めたくても、辞められない!」(廣済堂出版)。近著に、「人事評価の裏ルール」(プレジデント社)。

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