人材採用

【シグニアム インターナショナル】質の高いコンサルティングを支える経営で顧客の信頼を獲得

これまで経験したことがない経営危機に見舞われている人材紹介業界。本紙調査でも、各社それぞれの事情があるものの、人材紹介会社の売上は2008年度と2009年度の比較で40~60%の大幅ダウンとなっている。こうした状況の中でも、人員削減などのリストラを行わずに売上の減少幅を10%程度に抑えた会社がある。それが、エグゼクティブ・サーチのシグニアム インターナショナルだ。注目すべき特徴は、米国のサーチ・ビジネスで培われてきた質の高いコンサルティングと経営の実践にある。その秘訣をシグニアム インターナショナルの福居徹社長に聞いた。

シグニアム インターナショナル

シグニアム インターナショナル
福居 徹 代表取締役社長

学習院大学法学部卒業。米国ウッドベリー大学留学。日本初のエグゼクティブサーチ会社を設立。人材事業30年以上の実績をもつ。1997年にシグニアムインターナショナルを創立。

経済活動は停滞し、企業の採用も世界規模で止まったわけですが、グローバル・サーチ事業を展開している貴社の立場から、世界の人材紹介事業の現状を教えてください。

シグニアム インターナショナル( 以下、シグニアム)の前身は1950年代に設立されたワード ハウウェル インターナショナル(以下、ワード ハウエル)というエグゼクティブ・サーチの会社です。米国には、50年前に設立されたエグゼクティブ・サーチ協会(Association of Executive Search Consultant:AESC)という歴史のある組織がありますが、協会の設立メンバーとしてワード ハウウェルは参加しており、シグニアムになった後も継続して活動しています。

米国では、「エグゼクティブ・サーチ」は「コンサルティング」というビジネス分類に入っています。エグゼクティブ・サーチは、一般の人材紹介とは違いコンサルティングの手法によって企業を支援するビジネスとして行われているものであり、その報酬体系もコンサルティングとなるリテイン型(retain)を基本としています。

リテイン型の報酬体系は、このコンサルティングの進行の度合いに応じて費用がかかりますが、確実に採用を実現するものです。 AESCはこうしたリテイン型のエグゼクティブ・サーチの会社が集まったアソシエーションで、活動の決まりとして倫理規定(Code of ethics)があります。その中には「競合会社のサーチをやってはいけない」「リテイン型サーチをやらなければいけない」「クライアント会社から引き抜きをしてはいけない」など、基本となる9項目の倫理規定があり、その規定を守る中でエグゼクティブ・サーチ会社がそれぞれ切磋琢磨することになっています。

現在、AESCのメンバーは約500社で、米国が約300社、ヨーロッパ約150社、アジア・パシフィック約50社が加盟しています。日本では、当社のほかコーン・フェリー・インターナショナル、ラッセル・レイノルズ、スペンサー・スチュアート、島本パートナーズなど、外資系・国内系のエグゼクティブ・サーチ会社が活動しています。

このAESCの調査によると、2008年の全世界の加盟会社の売上は1兆1000億円で、2009年は7400億円でしたので、約32%ダウンしています。2004年から2008年までの5年間はエグゼクティブ・サーチが大きく花開いた時期となりました。特に2008年は最高の年になりましたが、リーマンショック以後の2009年の売上実績は、急激な落ち込みとなりました。

今回の世界同時不況では、日本のエグゼクティブ・サーチ会社も大きなダメージを受けました。こうした中、貴社は比較的ダメージを受けなかったと聞いています。

当社の売上実績は、2008年と2009年を比較すると10%のダウンとなりました。周りの実情をみると、まあまあの実績といえます。われわれの経営は、グローバル・ブティック(専門領域を持ったグローバルなエグゼクティブ・サーチ会社)であり、複数領域をカバーするゼネラリストです。特徴は、(1)専門別のコンサルタントがいる(2)ファーム(会社組織)であり、高いリサーチ能力がある(3)インターナショナル・ネットワークがある、という点です。

紹介する人材のポジションの多くがマネージャー以上で年収1200万円以上、約95%が日本人、外資系が7割、日本の会社は3割です。今回、当社が世界同時不況のダメージを受けにくかった理由の一つは、紹介する人材の領域をスペシャライズ(特化型の人材紹介)していなかったことです。

例えば、金融分野の人材紹介だけをやっていた会社の売上は、軒並み50%以上のダウンだったのではないでしょうか。当社で特に強い分野は、メディカル関連、自動車関連、ホスピタリティ(ホテルやレジャー)関連、IT関連などです。自動車関連は悪かったのですが、幸いなことに景気の影響をあまり受けなかったメディカル分野が、売上の減少を補いました。

ゼネラリストの経営には、「2つの鉄則」があります。1つ目は、1つの産業から、売上の40%以上を頼ってはいけないということです。当社の場合は、一部の産業分野は大きく落ち込みましたが、他の分野で補うことで、人員削減、事務所移転などのリストラを行わずに経営を維持することができました。ゼネラリスト経営は、バランスよく売上を上げていくことが重要なのです。業界が景気の大きな影響を受けたときに他の分野でカバーすることができます。

2つ目は、1つの会社からの売上に25%以上頼ってはいけないということです。これ以上頼ってしまうとハウス・エージェントになってしまいます。この会社が買収されてしまったり、コンサルタントが上手くコミュニケーションを図れなかった時など、何らかの理由で、取り引きが中止されてしまったときのリスクが高くなります。 米国の長いサーチ・ビジネスの経験の中から、こうしたゼネラリスト経営の鉄則が生まれました。景気が良い時も、悪い時も、こうしたことを理解しているのか、全く何も知らずに経営しているのかで、今回のような不況の波に飲み込まれたときに違いが出てくるのです。

当社は、業界が伸びていた2005年~2006年もゆっくりとした成長で、急拡大することはしませんでした。これもゼネラリストとしての公式を守ったということです。それが、ダメージが少なかった最大の理由の一つです。もう一つは、リーマンショック直後に企業の採用がすべて止まり、長引きそうだという予感がありましたので、2009年3月頃から、これまでのクライアントに再訪問を実施しました。業界別の担当者と私が訪問しました。

これまでのクライアントは百数十社、紹介した人材は数百人に上ります。その中には、当社が紹介した方がトップになられている会社もありました。2009年にはアサインは少なかったのですが、この4月には十数件のアサインがあり、これには私自身も驚いています。

企業の採用意欲が回復しつつあることから、新たに自動車と医療分野のコンサルタント2人を採用しました。今年は自動車関係が伸びてくると思っています。また、医療分野もさまざまな課題があり、ここでも人材が必要になると思っています。

コンサルタントの質の高さも、不況時にもアサインを得ることができた理由だと思うのですが、具体的にどのような採用・育成を実施しているのでしょうか。

まず採用ですが、「Two・Two・Two」を条件としています。これは、「2つの学校に行っている」「国内・外資の2つの会社に勤めた経験がある」「2つの国に住んだことがある」ということです。こうした経験とスペシャリティを持っていれば、コンサルタントとして2つの産業分野を横断的に見ることができるのです。

また、この10年は経験のない人を採用して、一年以上かけてコンサルタントになるための教育をしてきました。これまでも人材紹介を仕事としている人は数多くいましたが、リテイン型のエグゼクティブ・サーチを理解している人が少なかったためです。

最近は、リクルーティングを経験したことがあるコンサルタントが出てきましたので、こうした人たちの中から、専門性があり、かつコンティンジェンシー(成果報酬型)ではなく、リテイン型のコンサルティングでやっていくことに意味を見出し、理解のある人を採用し始めています。

コンサルタントの教育も経験に頼るものではなく、体系的に実施していると聞いています。

質の高いコンサルティングを提供するために、コンサルタントの活動にはクライアントの訪問から候補者が入社に至るまで、詳細なマニュアルがあります。コンサルタントの教育は、そのマニュアルに従ってリサーチ方法、インタビュー方法など、プロフェッショナルとしての教育を徹底しています。

一例ですが、クライアントへの訪問時は、様々な顧客の要望に的確に応えられるように訪問する会社の情報や業績、業界全体の情報などをプリリサーチします。初めて会ったクライアントへの自社紹介も、決まり文句になっていて、日本語でも英語話せるように、暗唱します。プロフェッショナルは信頼を得るためにも、自社の紹介で言いよどんでいてはだめです。

次に、どんな人材が必要なのかを聞き、決められたPS(パーソナル・サーチ)シートに書き込みます。訪問の後は、プロポーザル・レターを書きます。これにも決まった様式や書き方があり、クライアントに内容を提示します。 候補者のインタビューにも、マニュアルがあります。所要時間は、1時間15分。話の内容も順番に、決まっています。一連の質問が終わったら、検討してもらう仕事の情報をこちらから手渡します。最後に、緊張を解きほぐすために、仕事の話から離れて少し和む話しをします。

この順番を変えて、最初からその話をしていたら、それはただの井戸端田会議になってしまいます。さらに候補者のインタビューの順番にも、ストラテジーがあります。インタビューとは、inter(内面)から出てくる、view(見解)を引き出すと言うことなのです。

エグゼクティブ・サーチのコンサルタントは、まずは、こうした基本的なスキルをつけなければなりません。一人前のコンサルタントになるまでには、早くとも1年半はかかります。私の場合は、2年間は我慢しています。これが効を奏して、世界レベルで活躍できるコンサルタントが育っているのです。

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