人材育成

働き方改革とリーダー育成で“人財”を獲得し、競争力を高める【MSD】

「2020年までに日本で最も優れたヘルスケア企業となることを目指す」というビジョンを掲げるMSD。「優れた人財から選ばれる企業となる」ことを目的として、働き方改革やリーダー育成に注力している。人事部門を統括する太田直樹氏に、人事施策の狙いや取り組み状況などを聞いた。

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太田 直樹 取締役執行役員 人事部門統括 兼 人事部門長

「働き方の選択肢を増やすことだけが目的ではなく、新しいことにチャレンジし、個々人がイノベーションを起こすことが狙いです」

現在、実施している働き方改革について教えてください。

当社は2010年に万有製薬とシェリング・プラウが経営統合して誕生しました。その際、「2020年までに日本で最も優れたヘルスケア企業となることを目指す」というビジョンのもと、「評判」「成長」「人財」という3つの柱からなる長期成長戦略を立てました。

その中で「人財」は、「優れた人財から選ばれる企業となる」ことを目的として、「人財育成」「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性/個性を活かす)」「企業文化と社員エンゲージメント」の3項目に注力しています。

この3項目は相互に関連していますが、多様な人財を獲得し、企業として競争力を高めていくためには、働き方の選択肢を広げ、社員一人ひとりが多様な選択肢の中から自分らしい働き方を選ぶことのできる環境を整えていくことが重要だと考えています。

例えば、製薬会社の営業職は転勤の多い職種ですが、様々なライフイベントで転勤できない社員に働き方の選択肢を提供するために2014年3月に地域限定勤務の販促子会社「日本MSD」を設立しました。

社員が希望する地域で転勤せずに働き続けることができ、キャリアと生活の選択肢を広げることはもちろん、顧客との長期のリレーションを通して地域密着の営業活動の展開が可能となりました。また、地域限定勤務を希望しなくなった場合は、MSDへの復籍も可能です。

当初、この制度は子育て中の女性社員の利用を想定していたのですが、介護を理由に転勤をしたくないという中高年社員のニーズが思いのほか多いことが分かってきました。転籍希望者の社内応募に申込む社員の半数以上は介護ニーズを抱える男性の中高年社員です。

誰もが活躍できる環境づくりを進めている

●MSDの「多様で柔軟な働き方」に関する主な取り組み

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労働力不足で人事では社員の定着や女性活躍推進が課題になっています。

現在13%の女性管理職比率を2020年までに25%に引き上げる方針です。そのためには、リーダー人財の育成ももちろんですが、男女を問わず、誰もが活躍できる環境づくりを進めることが大切です。

今年4月には、「在宅勤務制度」を拡充しました。これまでは理由を問わず利用できる在宅勤務は原則週1日が上限で、対象は内勤業務に従事する社員に限定していました。変更後は週何日でも何カ月でも無制限に在宅勤務が可能となるだけでなく、利用できる社員を全社員に拡大しています。

在宅勤務については、必ずしも育児や介護のニーズのある社員だけではなく、クリエイティブに働けるから、より集中できるから、など特別なニーズのない社員も積極的に活用しています。

「ディスカバリー休暇」は昨年試験導入した長期休暇制度です。休暇分の給与は支払われないものの最大40日の休暇取得が可能で、例えばビジネススクールや語学学校への通学、長期滞在型ボランティア活動への参加など、自由に制度を使うことができ、約10人が利用しています。

こうした取り組みは働き方の選択肢を増やすことだけが目的と捉えがちですが、決してそうではありません。様々な知識や経験を身に付け、新しいことにチャレンジすることで、個々人がイノベーションを起こすことを狙いとしています。

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「リーダーの資質がある人を早期に特定、抜擢して、集中的に投資する方針です」

「人財育成」はどのような方針で行っていますか。

人財育成の考え方はプロフェッショナルの育成とリーダーの育成で大きな違いがあります。 プロフェッショナルの育成では、例えばセールススキルや製品知識の学習などは、職務を担当する全ての社員に対して満遍なく均質に行う必要があります。

一方、リーダーの育成は「選抜」と「集中投資」が必要だと考えています。誰もが手がけたい魅力的な仕事があったとしても、全員に与えるのは現実的に無理です。海外勤務や全社プロジェクトへの参加なども同じでしょう。当社ではリーダーの資質があると見込まれる人を早期に特定、抜擢して、そこに集中的に投資するという方針を取っています。

具体的にどのようなリーダー育成プログラムになっているのでしょうか。

リーダー育成のための代表的な制度は、5年前から始めたJapanLeadership Program(JLP)で、「選抜」と「集中投資」の考え方を如実に表したものと言えます。 プログラム期間は3年で、1年ごとに異なる業務を経験してもらいます。通常の人事異動では1つの業務に3年程度は携わるため3つの業務を経験するとなれば10年はかかるでしょう。ところがこのプログラムの参加者は3年間で時に10年分の仕事を経験することとなり、短期間で大きな力がつきます。

このプログラムには、3つのルールがあります。1つ目は「アウトオブコンフォートゾーン」。参加者には敢えて今まで経験していない不慣れで困難な仕事を担当してもらいます。

2つ目は「全社的、戦略的な仕事を与える」ことです。役員へのプレゼンテーション、部門をまたがる折衝などを経験させ、経営感覚を養います。

3つ目は「トップリーダーとの接点づくり」です。通常、若手社員のメンターといえば課長や主任で、職務遂行には彼らの果たす役割は大きいですが、リーダーシップについては別です。役員や部長などとの接点を数多く持たせることで、キャリアの早期から物事を経営の目線で見ることができるようにトレーニングします。

JLPの参加対象者は、どのように選抜しているのですか。

制度導入の背景には、経営環境の変化があります。今までの成功体験に執着している者はリーダーとしてふさわしいとは言えません。異質なものを取り入れるメンタリティを持つ新しいタイプのリーダー育成が必要です。

選抜は本人の実績だけでなく、勘に頼らない科学的手法でアセスメントしています。ですから、上司の推薦は必要としません。応募資格は「3年以上のビジネス経験」と「自主性」のみ。社内公募には、毎回大勢の応募が集まります。第1期生は100人以上の中から5人が選ばれ、既に3年間のプログラムから卒業し、すでに部長職に昇格した人もいます。

また、2013年からは中途採用者にもJLPの門戸を開きました。他社にはない貴重な経験を短期間で積めるとあって、多様な経験を積んだエース級の人財が集まってきています。

様々な取り組みが相互に関連して採用、育成、定着という人事の課題に成果を上げているということですね。

多様な働き方を提示することで、人財の獲得に好影響が出てきました。一生同じ会社で勤め上げる、長時間勤務、どこへでも転勤するなどの従来のような働き方を強要していては、求職者から選ばれませんし、離職率が高くなる恐れもあります。

予想していなかったのですが、当社は日本経済新聞社の新卒の離職率が低い会社ランキングで2位に入り、人財が定着している会社として知られるようになりました。

また、ミッション型経営の啓蒙には特に力を入れています。社員が出席するタウンホールミーティングでは、医師や患者さんにもメッセージをいただき、当社の製品によって患者さんの人生にどんな影響を与えているのか、その様子を知ることができるようにしています。

こうした機会を通じて自分たちの仕事が世の中のためになっているということが実感でき、社員のエンゲージメントレベルの向上につながっていると思います。

人がどこにエンゲージメントを感じるかは様々で、MSDでは「世界中の人々の生命を救い、生活を改善する革新的な製品とサービスを発見し、開発し、提供する」という当社のミッションや柔軟な働き方に魅力を感じて入社してくる人が増えています。働き方改革を推進し、人財育成に力を入れているのは全て当社のミッションを達成するためなのです。

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